こだわりのオーダーキッチンを主役に、
つくると食べるを楽しむ暮らし。

取材・文/三枝史子 撮影/KEN五島住まいの提案、北海道

 ダークカラーの外壁とは対照的に、エントランスポーチに積み上げた薪がナチュラルな雰囲気を醸し出すMさんご夫妻の住まい。薪は住む人のライフスタイルを物語るだけでなく、通りからのほどよい目隠しにもなっている。

ダーク色のガルバリウム鋼板と薪のコラボが絶妙。カーポートの奥にはタイルと芝生を敷いたBBQコーナーがある。

玄関を入ると通り土間をイメージさせるモルタルの床が奥まで続いており、どっしりとした薪ストーブが目に入る。吹き抜けの高い天井を貫くようにすっと伸びた煙突が、のびやかな住空間を象徴しているようだ。

玄関はいたってシンプルなつくりだが、ウォークインタイプの大型玄関収納が完備されている。
薪を積んだ雰囲気たっぷりのエントランス。玄関ポーチの向こうには家庭菜園がある。
大きな吹き抜けのある開放的なリビング。ご主人は薪ストーブには当初興味がなかったものの、オープンハウスで炎を見て以来すっかり虜に。土間には薪を置いたり、自転車を乗り入れたりするのにも便利。

 最初に土地を決めてから、施工会社の選定にはじっくり時間をかけた。毎週のようにハウスメーカーや展示場を見学する日々が続いたという。職場で建築関連を専門とするご主人は、ご自身も一級建築士の資格を持ち自邸のプラン作成には積極的に関わりたいと考えていた。「家を建てるときはやりたいことがたくさんあったので、こちらの意見を快く受け入れてくれる会社を探していました。HSデザインさんはまずホームページで好印象を持ち、実際に訪ねてみると社長の城下さんの人柄に惹かれたのが大きかったかな。すごく真面目でノウハウも豊富なのに、グイグイ押してこないところがいい(笑)。会ったその日に、この人なら僕たちが理想とする家をいっしょに考えてくれそうだと直感したんです」。その後も同社で手がけた住宅をいくつか見学する機会に恵まれ、細部にまでこだわりが感じられる確かな住まいづくりに確信が持てた。

ダイナミックな吹き抜けが開放感をもたらすリビングはキッチンと一体化。収納豊富なキッチンは土間からもアクセスでき、右手の動線上に水回り、BBQテラスへ出られるお勝手口が続いている。

 住まいづくりでもっとも大切にしたかったのは、キッチンとリビングを一体化させたワンルームスタイルの空間づくりだ。その理由をご主人が話してくれた。「だいたい妻はキッチンにいることが多く、僕はほとんどリビングにいたりします。同じひとつの空間ならコミュニケーションも取りやすいですしね」。料理が大好きだという奥さまは、仕事から戻るとキッチンへ直行。食事の支度はもとより、つくってみたいレシピに挑戦するのが楽しくて休日も大半の時間をキッチンで過ごすという。プランに関してはほぼご主人にお任せだったのが、キッチンだけは奥さまのイメージ通りに実現した。

キッチンから見た室内全体。窓は視線より上の位置に設け、カーテンをしなくても過ごせるように。ハイサイドライトから光がたっぷり入る。

 「打ち合わせのたび、夫と城下さんは専門的な話で盛り上がっていました。窓枠を隠すとか、手すりの収まりをどうするかとか、正直ついていけませんでしたけど、カッコいい家になるんだろうなと。私はキッチンにこだわりがあったので、そこだけがんばりました(笑)」。ステンレスの天板にナラ材で仕上げたキッチンはまさにこの家の主役ともいうべき存在感。作業スペースやゴミ箱の位置、引き出しの数や大きさ、飾り棚の演出など、奥さまご自身が使い勝手を考えながらレイアウトを決め、寸法入りの図面まで作成。それをもとに、城下さんと造作キッチンを数多く手がける匠龍木工社がタッグを組み、見た目にも美しいキッチンを完成させた。「食洗機を選ぶのに東京へショールーム見学に行ったのも、楽しい思い出ですね」。お気に入りのキッチンに立つ奥さまをリビングから眺めるご主人も、大いに満足しているに違いない。

奥さまが寸法を記した図面をつくり、思い通りに仕上げたオーダーメイドのキッチン。

 2階には吹き抜けを囲むようにキャットウォークが設けられ、大人の遊び心を掻き立てる。そろりそろりと歩けばルーバーの隙間から階下がちらりと見え、ちょっとしたスリルも味わえるのだ。いずれ猫を飼う予定で設置したものだが、ハイサイドライトの窓拭きにも重宝する。主寝室はベッドを置いただけのシンプルな空間で、同じフロアにウォークインタイプの大型ファミリークローゼットが別途設け、衣類や旅行鞄などの収納をひとまとめに。入口は階段を上がった正面にあり、帰宅後の着替えもムダのない動線で行える。主寝室とクローゼットを分けたのは「どちらかが寝ているとき、音が気にならないように」するためだ。

吹き抜けを囲むようにつくられたキャットウォーク。屹立する薪ストーブの煙突がシンボリックに映る。

 昨年11月に入居して以来、理想を叶えた新しいわが家では、日々の暮らしがより豊かなものになったという。ハンモックにぶらさがり、静かに時を過ごすだけでも気持ちが満たされる。自宅の庭で家庭菜園ができるようになったのも大きな収穫だ。「料理の途中で畑に出て紫蘇を摘んだり、そんなことのひとつひとつが楽しいですね。冬は薪ストーブでピザを焼いたり、おでんを煮たり。庭で育てたバジルでソースをたっぷりつくり、ピザ用にストックしてあるんですよ」。畑の野菜を調理する様子を嬉々として話す奥さまは、こだわりがつまったキッチンのおかげで2人分のお弁当も楽しみながらつくっているという。横で聞いていたご主人は少し照れながら「毎日おいしいものが食べられるのは、ありがたいことです」と、奥さまに感謝の笑顔を向けていた。

ゴミ箱や食器カゴなどの位置もあらかじめ考慮に入れて設計。
収納するものを決めて引き出しのサイズにもこだわった。
冷蔵庫のすぐ隣には上部と下部に開口部を設けた吊収納が。常備品のストックにも便利。
主寝室の窓はプライバシーに配慮してすべて高い位置に設定。

<設計のポイント>

  • 薪ストーブのある土間空間と一体になったワンルームスタイルののびやかなLDK。
  • お料理好きの奥さまのこだわりを反映させた、フルオーダーメイドの造作キッチン。
  • 開口部を視線の高さより上に設け、カーテンのいらない開放的な暮らしを実現。
  • 2階の吹き抜けに面したホールはキャットウォークを設けた遊び心のある空間に。
  • 大容量のファミリークローゼットを設け、衣類や小物の整理整頓を快適に。

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