男のロマンと家族への想いが
同居する住まい。

取材・文/三枝史子 撮影/酒井広司住まいの提案、北海道

 「コレをつくりたくて家を建てたんです」。そういってご主人が見せてくれたのは、愛車ポルシェ911ターボがいかにも心地よさそうに鎮座するガレージである。優に2台分は収まるゆったりしたスペースに本格的な排気ガス排出システムまで装備された、クルマ好きにとっては憧れともいえる空間だ。冬期間のアイドリングやメンテナンスもクリーンな環境で行なえ、壁面は木網セメントにダークな塗装を施したこだわりのインテリア。

高い位置から眺める愛車の精悍な佇まい。

 ガレージに隣接しているガラス張りの部屋はご主人の書斎で、ロフトタイプの上下階になっている。上にはデスクを置き、下は絨毯敷きのくつろぎスペース。部屋の中から視線の高さを変えて愛車を眺めたいという、夢のような要望が叶えられた。しかし、ここまで来るのにあきらめの境地に立ったこともあった。

建物前のスペース中央にシンボルツリーを配し、ロータリーのような空間に。

 「最初は大手ハウスメーカーに相談していたのですが、こちらの希望がなかなか反映されなくて。やはりムリがあるのかなと。家づくりをいったん白紙にしてどうしようかと考えていたところ、たまたま雑誌で目にしたHSデザインさんにその場で電話したんです」。社長の城下秀樹さんを訪ね、理想とするビルトインガレージの話を伝えると「全然できますよ!」と、力強い答えが返ってきた。ガレージを住まいづくりの最優先事項と捉え、まずはイメージを形にしてみましょうということになった。そのときご主人は「この人なら任せられる。自由に家ができるんだ」と、小躍りするような気分だったという。

愛車のためのビルトインガレージを充実させた住まいづくり。
ガレージに隣接する書斎は、ガラス張りのロフトスペース。

 ガレージありきでのスタートだったが、奥さまもモデルハウスを兼ねた城下社長の自宅を見て、HSデザインの住まいづくりが気に入った。シンプルなデザインに木のぬくもりが響き合う空間は、人をほっとさせるやさしさがある。「城下さんは相談しやすい雰囲気を持った方で、理想を形にしてもらえそうだなと思いました。広くて開放感のあるリビングやどこにいても家族の気配が伝わる間取りなど、希望通りの家ができあがりました」。

窓際が吹き抜けになったのびやかなリビング。突き当たりの壁はダークな差し色で重厚感ある印象に。

 一見、平家のようにも映る外観だが、ガレージの裏手には芝生を張った中庭があり、その中庭を望むようにリビングを配置した2階建て住宅である。道路から贅沢に距離を設けた車寄せと、中庭を中心としたコの字型プランにしたことで、外からの喧噪と視線が遮断され、ダイナミックな開口を設けながらも落ち着ける住空間となった。

 エントランスから続く長い廊下を伝って室内へ行く間も、スリット窓から中庭の緑がちらりと目に入り、楽しい気分を誘う。廊下を右に折れるとカウンター付きのキッチンがあり、その奥がリビングだ。キッチンはぐるりと一周できるプランになっており、カウンターはおもにお子さんが勉強をする場所として設けたものだ。ここでなら料理をしながらでも親子のコミュニケーションが取りやすい。吹き抜けのあるリビングは庭の方にも視界が開け、ご主人曰く「仕事の疲れも忘れ、心底リラックスできる空間になりました」。

玄関への動線は、車寄せを回り込むように敷石を伝って趣深く。
玄関ホールから中庭の横を通り抜けてリビングへ。

 リビングから架かる階段は空間に彩りを添える絵になる存在だ。「圧迫感のないデザインが気に入っています。子どもたちの昇り降りが見えるのもいいですね。主人はちょっと反対みたいでしたけど」と奥さま。「いずれ子どもたちが大きくなったとき、親と顔を合わせたくないなんて時期もあるかもしれないし」。自身の経験からプライバシーは分けた方がいいのではと考えるご主人だが、ほがらかで仲のいい姉弟を見ていると、それも取り越し苦労に思えてくる。お姉ちゃんにこの家の感想を聞くと「あったかくて広いところが好き。弟が家のなかをぐるぐる走り回って楽しい」と、うれしそうに笑った。

パーフェクトに囲われた中庭はマットを敷いてお昼寝したり、BBQを楽しむプライベート空間。

 この家の完成は昨年2月。冬の暮らしも経験した。前に住んでいた社宅が寒かったため、暖かい家は家族みんなの願いだった。「建てる前、断熱性や気密性がすごく気になったんですが、現場で棟梁の糸岡さんを見ていると安心しました。とにかくキレイな仕事ぶりで絶対に手を抜かないと確信できたんです。一度部屋を暖めると温度が下がらないし、玄関ドアを開けるときも密閉性が強くて力がいるくらい」とご主人。HSデザインのすべての現場では、糸岡棟梁が責任を持って施工にあたるため常に安定したクオリティが保たれる。

対面キッチンにはカウンターをセット。軽い食事やお子さんの宿題にも活用。
トイレの天井はガレージと同じ黒く塗った木網セメント仕上げ。

 奥さまは家にいるのがすっかり好きになったそうだ。「主人も窓を拭いてくれたり、芝を刈ってくれたり。以前はしなかったようなこと進んでしてくれます。外出がめっきり減りました」。とはいえ、たまには愛車のポルシェを駆って夫婦水入らずでドライブに出かけるのも、ご主人にとっては最高のリフレッシュのようだ。

<設計のポイント>

  • ロフトタイプの書斎から愛車を眺められるビルトインガレージ。
  • ガレージの後ろに中庭を配置し、プライバシーに配慮したコの字型プラン。
  • 中庭・吹き抜け・リビングが一体となった、開放感あふれる住空間。
  • 燻煙仕上げのウッドデッキを縁側のように配した中庭は、家族のオアシスに。
  • 吹き抜けに面したフリースペースは、自由な用途で家族構成の変化に対応。

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