夫婦それぞれの仕事場を兼ね、
家族が一日じゅう心地よく暮らせる住まい。

取材・文/三枝史子 撮影/KEN五島住まいの提案、北海道

 WEBクリエイターであるご主人と音楽を教える奥さま。互いに仕事のスキルを持つご夫婦が念願のマイホームを完成させて1年が経つ。結婚した4年前はこんなに早く夢が叶うとは考えてもいなかったそうだ。

畝幅の異なるガルバリウム鋼板をタテとヨコに貼り分け表情豊かに。鋼板にうねりが出ないよう下地にひと手間加え、凹凸のないフラットな仕上がりを実現している。

 きっかけは当時住んでいた家の近所に大規模な分譲地が出たこと。交通の便もよく、もとから気に入っていた場所だったので、大手ハウスメーカーの建築条件付きのその土地を見に行った。そして、メーカーの1社に話を聞き、どれぐらいの予算で希望する家ができるのか見積りを出してもらった。正直、高いのか安いのか分からなかったが、ひとつだけはっきりしたのはその金額では手が届かないということ。しかし、現実的なコストを目の当たりにしたことで住まいづくりのスイッチが入り、支払い可能な予算について夫婦で真剣に話し合うようになった。

南側から見た外観。十分な広さのカーポートを確保し、庭づくりもこれからの楽しみ。

 それ以降、周辺エリアで再び土地探しをはじめ、同時に地元の工務店や建築会社にも間口を広げ、展示場めぐりや見学会にも数多く参加。知識も増え、どんどん目も肥えていく。そんなとき、雑誌で見つけたのがHS DESIGNだ。写真で見る住宅実例は、強烈な個性はないけれど無垢の木を多用した空間の洗練されたデザインが気になった。ご主人いわく「なんかイイ」。まずはメールを送り、候補にあげている土地の価格とプランの要望を伝え、予算内で可能かどうかを聞いてみた。「すぐに社長の城下さんから返信がきました。現状では厳しいという答えでしたが、何か別の提案をしてくれそうな印象を持ったんです」。

正面はマリンバを置いた音楽室。
玄関の床にはモールテックスを採用。ひび割れのリスクが少なく、やや光沢のある美しい質感。

 城下さんを訪ねると最初に聞かれたのは予算ではなく、どんな暮らしがしたいのか。「僕らは土地に固執しすぎていて、肝心の家が2の次になっていた。でも冷静に考えると車メインの生活なので、駅から少し離れていても問題ない。土地の価格を抑えて、その分家にお金をかけようと」。

手前にキッチンカウンター、ダイニング、リビングがほどよい距離感でレイアウトされている。

 住まいはご主人の事務所も兼ねるため、一日じゅう家族が快適に過ごせることが大前提だった。「事務所とは別に、気軽にパソコンと向き合える書斎がほしかったのですが、城下さんが提案してくれたのは自由でわくわくするような空間でした」。3帖ほどのコンパクトな書斎は、階段ホールの踊り場とリビングの間の中2階にあり、頭上は開放的な吹き抜けだ。リビングとオープンにつながりながら、作業に集中できる落ち着いた雰囲気がある。床下は中2階の副産物として生まれた大容量のストレージで、季節用品の収納に便利。書斎にいても家族とのコミュニケーションがスムーズで、奥さまにも「部屋にこもられないのがいい」と好評である。事務所スペースは、いずれ子ども部屋にする予定で2階に設けた2室分の広さの洋室を使い、来客との打ち合わせにも対応。階段ホールはリビングから見えない位置にあり、上下階でオンとオフの区別がつけやすい。「城下さんは普通で満足するのではなく、常に“それ以上”を考えてくれる人。オーナーレベルでは気づかないような部分のデザインにもこだわり、いい家をつくろうという意気込みにあふれていました」。

キッチン収納は黒いポリカーボネートの建具でモダンな印象に。軽いので開閉しやすく、食器類を出し入れする際もストレスがない。
無垢材をふんだんに使ったナチュラルな心地よさ。床と壁が接する部分に巾木を設けず、空間はすっきりとした印象。造作のつくり込みやていねいな仕上げが、「なんかイイ」と思わせる所以である。

 1階床は北海道産のナラ材で仕上げているのに対し、2階はコスト削減と趣を変える意味で通常は下地に使う合板をフローリングに加工。これはHS DESIGNにとっても初めての試みだが、下地材で床をつくるというアイデアをご主人はおもしろがって受け入れた。「ザラついた板にヤスリをかけ、塗装も妻とふたりでがんばりました。子どもが生まれたばかりで大変だったけれど、自分たちで手をかけた充足感があります」。ランダムな色合いが個性的な床は、何よりも手づくりの風合いが気持ちをあたためる。

廊下をはさんで左手にキッチン、奥に音楽室。右手に階段室があり、ソファの後ろが中2階の書斎、その下がストレージになっている。正面突き当たりを右に折れると玄関。
少し高い位置の書斎からリビングとの一体感を味わい、テレビを見ることもできる。パソコンに向かうときは半分ボックスにこもる感覚で。

 施工中は現場にも毎日のように通い、大工の糸岡棟梁とも親しくなった。「書斎本棚の斜めの仕切りは糸岡さんの提案。大工さんもセンスがいいので話も盛り上がるんです。設備系の職人さんたちとも顔なじみになり、みんながひとつのチームになってうちをつくってくれている。そう思うと、うれしさと安心感がこみ上げてきました」。城下さんもオーナーの現場通いは大歓迎だという。工事の過程を見ながら細かい変更などもその場で対応できるのはもちろん、住まい手とつくり手が関係を深めることで、愛情のこもったいい家ができるからだ。

2階吹き抜けから階下を俯瞰。書斎とリビングの関係性がよく分かる。

 この家で暮らしてから、家族が朝昼晩ともに過ごすことを窮屈に感じたことはない。1歳のお子さんは「パパっ子」だといい、奥さまが食事の仕度をするときもパパがそばにいればごキゲンだ。ご主人も仕事と生活のバランスを取りながら、育児を楽しんでいるという。2016年にはじまった住まいづくりのプロセスはご主人のブログ「札幌で注文住宅を建てるマイホームBLOG 」でも詳しく紹介されている。理想のわが家は、心許せるビルダーと家族が一体となってつくるもの。あらためてそう感じた。

音楽室はリビングから独立させ、玄関のそばに配置。奥さまが演奏会などで楽器を搬出する際の開口部も設け、車を直接横づけできるようにされている。
来客時にも気兼ねがいらない独立した階段ホール。手すりのデザインは極力シンプルに。
下地材で仕上げた2階の床は夫婦の力作。

<設計のポイント>

  • WEBクリエイターのご主人と音楽を教える奥さまの仕事場を兼ねた住まい。
  • 吹き抜けを配した中2階の書斎と心地よい距離感を保つリビングダイニング。
  • 音楽室を独立させ、生徒さんが玄関ホールから直接出入りできる動線に。
  • 水回りスペースを2階へ配置し、洗濯と物干しが効率よくできるよう配慮。
  • キッチンから室内全体を見渡せ、子どもにも目が届きやすい空間構成。

Other Worksその他の雑誌掲載事例

telmail