夏は畑、冬は薪ストーブ。
理想のわが家で、暮らしの楽しみが開花。
取材・文/三枝史子 撮影/KEN五島住まいの提案、北海道
冴え渡る空気の中、三角屋根の家の窓からもれる灯りが夜道を照らす。それだけのことなのに、なんて温かいのだろうと思う。家は、家族の暮らしを守る灯台。帰り着く場所があれば、それだけで強くなれる。そんな気がするのだ。この家に住むのは、ご夫婦と子どもふたりの4人家族。ご主人は幼い頃、父の仕事の関係で転校が多かったといい、自分の子どもには同じような経験をさせたくないと考えていた。ひとつの土地に根を張れる家があれば、たとえ転勤になったとしても安心して家族を残していける。こうした思いが住まいづくりのモチベーションとなった。
家を建てようと模索しているとき、ご主人はたまたま書店で手にした本誌「住まいの提案、北海道」に掲載のHS DESIGNに釘づけになる。風景を切り取る大胆な開口部と、窓枠の存在感を消した美しい空間の収め方。写真を見るや、携帯電話のボタンを押していた。「社長の城下さんが出てくれて、ちょうどオープンハウスをやっているから見に来ませんかと。その足で直行すると、以前から気になっていた家を設計したのも城下さんだと分かり、ご縁を感じました」。その一方で、初対面のこともあり、積極的にぐいぐい迫られたらどうしようとの懸念もあったというが、すぐに杞憂に終わる。「城下さんは物腰も穏やかで、こちらの思いを大切にしてくれる聞き上手な人。土地探しの苦労も共有してくれそうで、その日のうちにこの人にお願いしたいと思いました」。
HS DESIGNのサポートで購入した土地は、住宅地にありながら山が見え自然に近いロケーション。東西に細長い敷地で西側が道路に面し、奥の東側3分の1ほどから下り斜面になっている。建物は西側ぎりぎりに配置し、東側に庭や畑となるスペースを広く確保した。このため、後ろの家とも距離が保たれリビングからはせいぜい屋根が見える程度。夏には緑が生い茂り、カーテンなしでも生活できる。
三角屋根のこの家は、左右が非対称な「へ」の字型に勾配し、長い方の一辺に吹き抜けを設けている。天井の傾斜に沿ってつくられた開口部はスケール感たっぷり。「窓を大きく取り、明るい家にするのが希望だったのでうれしいですね。妻も私も木が好きなので、随所に取り入れてもらいました。とくに、吹き抜けの窓の木枠が気に入っています」。
空間の中心に置かれた薪ストーブは城下さんに薦められたもので、冬の間はほぼ主暖房として愛用するほど、この家になくてはならない存在に。裏庭の薪小屋と土間伝いに往き来でき、ストーブの横に薪をストックしておけるのも便利だ。また、暖を取るだけでなく、シチューなどの煮込み料理やベイクドポテトをつくるさいの調理器具としても活躍。奥さまは「薪ストーブのおかげで冬が楽しくなった」という。炎が赤々と燃えるファイヤースペースは玄関ホールからまっすぐ正面に見えるように設計され、Fさん家族の暮らしのシンボルのようにも映る。
木が好きだというFさんの家には、こだわりの無垢材が使われている。ブビンガというアフリカ原産の木で華やかな赤い色味が特徴だ。材木店から直接仕入れた板をキッチンと一体化したダイニングカウンターをはじめ、テレビボードやセンターテーブル、2階フリースペースの本棚にも採用。仕上げは自然の風合いを損なわないよう、ミツロウワックスを家族の手で塗り込んだ。「後々のためにメンテナンスを覚えておきたいし、住まいづくりに参加したという実感もほしかった。この家に暮らすようになり、ますますDIYが好きになった気がします」。
みんなで近隣の山へよく散歩に出かけるといい、自生する山ブドウでジュースをつくったり、隣りのカエデの木の樹液を採取してメイプルシロップをつくったりと、手づくりの楽しさにも目覚めた。夏は裏の畑でトマトやズッキーニを育て、冬は薪ストーブックッキングで食卓に彩りを。もともとキャンプが好きなアウトドア志向の家族にとって、ここでの暮らしは肌になじむ。「子どもたちが落ち葉で遊ぶのを土間から見たり、ウッドデッキに腰かけて日向ぼっこをするのはいいものですね」と奥さま。家を手に入れてから自分たち本来のライフスタイルも開花した気分だという。次は燻製づくりに挑戦したいと目を輝かせる。ここならやりたいことは何だってできるさと、ご主人は得意げだ。
<設計のポイント>
- 敷地の東側斜面を広く確保し、近隣とのプライバシーに配慮した建物レイアウト。
- 片流れの吹き抜け天井に合わせて設けた、山を映すダイナミックな開口部。
- この家のシンボルとなる薪ストーブの土間スペースを住空間の中心に設置。
- アイランドカウンターとダイニングが一体となった、360度回遊できるキッチン。
- 無垢のブビンガを造作にふんだんに使い、インテリアをトータルにコーディネート。
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