水辺の緑を借景に、
四季の風を楽しむ住まい。

取材・文/三枝史子 撮影/KEN五島住まいの提案、北海道
裏庭に水辺の景観を従えた絶好のロケーション。生い茂る緑を借景に、心豊かな暮らしが楽しめる。

 建物の裏手に小川が流れ、その対岸は四季折々に豊かな表情を見せてくれる雑木林。自然のそばでゆったり暮らすにはまたとないロケーションだ。もともとこの近くのアパートに住んでいたYさんご家族は、この土地が売りに出されたことを知り即決断。周囲に遊歩道が続く魅力的な環境に、以前から憧れていたのである。

カーポートを手前に広く設け車の出入りもスムーズ。住まいは堅牢なガルバリウム鋼板で仕上げたシンプルなデザイン。

 マイホーム計画は土地を入手する前からすでに進めていた。小学生のお子さんふたりも成長し、アパートを狭く感じるようになったからだ。そんなとき、本誌「住まいの提案北海道」で紹介されていたHS DESIGNの住まいづくりにピンときて、事務所兼社長の城下秀樹さんの自邸を訪問。その当時の様子を奥さまは振り返る。「最初、一人でやっていらっしゃる会社なのでちょっと不安でしたが、実際に城下さんにお会いしてみると物腰がおだやかで、初めてなのに何でも話せちゃう。それにご自宅のセンスが素晴らしい。帰るときにはこの人にお願いしようと、夫婦で決めていました」。

ナラの床材を一部壁面にあしらった玄関ホール。靴脱ぎ場は家族と来客用をセパレート。
玄関ホールには天井までの壁面収納があり、片づけもスッキリ。

 細かい打ち合わせから設計まですべて城下さんが引き受けるスタイルは、気持ちを伝えやすく、提案も理解しやすかった。当初感じた不安はまったくの杞憂に終わり、フェイス・トゥー・フェイスのコミュニケーションができたことで、ストレスのない住まいづくりができたという。

日常のなかに四季の自然を招き入れる開放的なリビング。テラスから川が見える。

 緑のロケーションを生かし切る設計デザインが、住まいづくりのテーマである。心地よいせせらぎが聴こえる川辺に面してリビングを設け、大きな窓は外部との一体感を味わえるようサッシの枠ができるだけ見えないように工夫。2本の柱の向こうに、そのまま緑が続いているかのような印象だ。

 川の眺めは北側に位置しているものの、窓を大きく開いたことで明るさに問題はない。それどころか、南からの強い光が正面の樹木を照らし、葉っぱの一枚一枚が点描画のごとく鮮やかな濃淡をまとい、窓辺を飾ってくれるのである。「階段の窓もすごく気に入っています。昇り降りするときに景色が違って見えてきれいなんですよ」と奥さま。外部の自然を絵画のように切り取る窓は、春夏秋冬それぞれに美しく塗り替えられ、一年じゅう飽きさせないのだ。

裏庭からの自然光が階段ホールの白い壁をやさしく照らす。

 週末には川が運ぶさわやかな風に吹かれながら、家族揃ってバーベキュー。息子さんは芝生の上で野球の素振りをし、ご主人はビールを片手にのんびり。誰の目を気にすることなく、ゆったりとした時間が流れてゆく。

キッチンからの眺めもダイナミック。

 いずれ来る老後の暮らしに備えて、水回りの機能や豊富な収納スペースを1階にまとめ、ワンフロアで生活が完結できるようにも配慮した。このため2階は基本的に寝室スペースとなっているが、唯一趣味の空間として設けられているのがご主人の部屋だ。

ご主人が永ちゃんにどっぷりつかる趣味の部屋。

 中学時代から矢沢永吉の熱烈なファンだというご主人は、永ちゃん関連のCD・DVD・書籍を多数コレクションしており、ようやく念願かなってそれらを一堂に並べられる場所を得たのである。緑を映すカウンターで大好きな音楽を聴き、すぐそばでお子さんたちも思い思いの本をめくる。ご主人にとっては、まさに至福のひとときだろう。奥さまがリビング階段を希望したのは、趣味の部屋にこもるであろうご主人の気配を感じたいという理由もあったのだ。

プロジェクターを下ろせばリビングがシアタールームに。

 そんな奥さまが「ずっと家にいたい」と大絶賛する住まいは、HS DESIGNの城下さんをはじめ、大工さんや電気設備の担当者など、施工者の見事なチームワークによるものだという。「家から現場が近かったので毎日のように通ったのですが、現場がいつもきれいに片付いていて感心しました。みなさん同じ志で目標に向かい、妥協のない仕事ぶりがこちらにも伝わってきて。窓の追加やコンセントの位置など、その場で変更したいことがあれば臨機応変に対応してくれて、イヤな顔ひとつしない。素晴らしいチームに恵まれ、楽しく住まいづくりができたことに今も感謝しています」。

リビングに隣接する畳の間。収納もたっぷり確保。

<設計のポイント>

  • 緑豊かな借景を日常に取り込むリビングダイニング。
  • 内と外の一体感を演出するシームレスなビューウィンド。
  • ご主人のコレクションを一堂に集めた趣味の部屋。
  • リビングからストレートに続く窓のある階段。
  • 廊下、和室、階段下、水回りなど大容量の収納スペース。

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