緑に包まれた丘の上に建つ、
四季の移ろいを愛でる家。
取材・文/三枝史子 撮影/KEN五島住まいの提案、北海道
札幌の街を見下ろす小高い丘の突き当たりに、Kさんご家族の家はある。急な坂道を上り切りてっぺんまで到達すると、そこは山の際に面した一角だ。深い緑を背景にいま来た道を見返すと、豆粒のような家並みのさらに奥に山の稜線が悠々と連なっている。絶景。夜景もさぞやきれいだろうと想像せずにはいられないロケーションだ。
家が完成したのは昨年の2月。夏になるとバーベキューの回数も多くなる。家族でわいわい食べるのが楽しいという奥さまが、当時の住まいづくりについて話してくれた。「まだ社宅で暮らしていたとき、人目が気にならない場所に家を建てたいね、と。子どもが外で思い切り遊べる環境が重要でした」。
土地探しと並行しながらビルダーを検討し、夫婦揃ってガルバリウム鋼板の外壁が好きという条件のもと、行き着いたのがHS DESIGNのホームページだ。多くの実例で紹介されるシックで洗練されたデザインに、ここなら自分たちの理想がかなうと確信したのだという。「社長の城下さんは温厚で物静かなのに、住まいづくりに対する熱がスゴイ。何より親身になってくれることが大きかった。最初から波長が合ったんですね」。当時、すぐに建てるという状況ではなく、着工までに4〜5年はかかっている。その間、計画を催促されることもなく適度に放っておかれたおかげで、じっくり自分たちのペースで住まいづくりができたという。
モノを見せずにシンプルな住空間を実現したいなど、最小限の要望をリクエストした以外は城下さんの提案に期待することにした。当初、緑を囲むように愛でるL型プランも考えられたが風水的にあまりよくないとのことで、現在の四角いプランに落ち着いた。1階にカーポートと2つの洋室、日常の中心となるリビングは見晴らしのいい2階へ。リビングとダイニングキッチンの間に階段を設け、それぞれのスペースをさりげなくセパレート。階段の手すりを強度のあるアイアンでできるだけ細くつくっているため、視界が途切れることなく開けた気持ちのいい空間となった。
リビングの西側には木製サッシの大きな窓を設け開放感を演出。ソファを背にした北側の窓は、やわらかな光のなかに山の稜線が続いて見えるよう横長のスタイルに。同じ高さに並ぶ3つの窓は、季節によって表情を塗り替える風景画のようでもある。キッチンへ目を向けると、パントリーの上に設けられた明かり取りのスリット窓が、木洩れ日に輝く緑を鮮やかにトリミング。全方位、心を解放するようなすがすがしい景色のパレードに、疲れも自然と癒されるのである。
入居から1年半が経ち、小学生の男の子がいる家庭とは思えないほど室内はきれいに片づいている。モノを出さずにシンプルに暮らすという、最初からの意志が家族全員で共有されているようだ。各所に大きめの収納を設けたのはもちろん、不要なものは置かない・買わないという習慣も徹底されている。また、空間全体との調和からテレビボードやパソコンカウンターなどを造作し、家具のテイストがバラバラになることも避けた。新築以来、新たに買ったのはベッドぐらいだそうで、こうした配慮も快適な住環境の維持につながっている。
小さなことにも手を抜かない城下さんのこだわりから生まれた、暮らしを弾ませるちょっとした細工もご家族に好評だ。たとえば、みんなが鍵をなくさないようにと考案された階段上り口のキー挿しや、玄関の壁面の溝にフックを差し込むだけの可動式コート掛けなど、ユニークなアイデアにあふれている。施工現場を一手に担う糸岡棟梁との連携による楽しい住まいづくりがHS DESIGNの持ち味だ。現在、単身赴任中のご主人は1日でも余裕があれば帰ってくるほど、居心地のいい住まいだと絶賛。家族が揃えば、屋根付きのバルコニーでバーベキューがはじまる。正面に映る深い緑を指差して「ここ、キャンプ場にいるみたいでしょ」と、奥さまはくったくのない笑顔をみせた。
<設計のポイント>
- 2台のカーポートを組み込んだ、周囲の緑に映えるシンプルな外観。
- 全方位からの眺めを楽しめる、開放感ある2階リビング。
- 景色を絵画のように見せる計画的な開口部の配置で、四季の移ろいを満喫。
- キッチンの横並びに水回りを集中させた、使い勝手のいい家事動線。
- リビングから気軽に出入りできる、深い軒に守られたバルコニー。
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