悠々と翼を広げるように、
おおらかな自然を抱く家。
取材・文/三枝史子 撮影/酒井広司住まいの提案、北海道
勇払郡厚真町。広大な雑木林と水田にはさまれた道沿いに、Mさんの家は建つ。隣家まではかなりの距離があり、自然を独り占めするかのような胸のすくロケーションだ。雪解けが進む田畑の上空をマガンの群れが飛び交い、シベリアへ帰る白鳥もこの土地を経由する。そんな環境を存分に享受すべく、平家の住まいは両翼を大きく広げていている。
外壁にガルバリウム鋼板と道南杉を組み合わせた「くの字型」のフォルム。端から端までおよそ35メートルもの長さがあり、下から上へせり出すように角度をつけた壁が、独創的な印象を与えている。牧歌的な風景とは対照的な、どこか都会的なセンスを感じさせるたたずまいだ。
もともと住宅のデザインに関心の高かったご主人は、住宅情報マガジンでHSデザインを知り、シンプルでありながら自然素材を使ったあたたかみのある住まいづくりに魅せられた。「いくつかの住宅を見学させてもらい、そうのうちの1棟が僕たち夫婦の理想とする平家でした。また、この家を建ててくれた大工さんの家も魅力的で、そんな人に建ててもらうのも頼もしかったですね」。
西から東へ長屋のように延びる住まいは、ちょうどダイニングキッチンを中心にくの字に折れる。そうすることで住空間に視覚的な変化が生まれ、いつも新鮮な気分が味わえるのだ。同じ空間にいながら、南側に雑木林、北側に田園と異なる景色が目に入るのも楽しい。
住まいづくりにおいては、夫婦で相談しながら要望を整理してメモで伝えた。まず、平家であることを前提に、小さくてもロフトがほしい、無垢材を多用すること、収納をたっぷり確保すること、自然景観を取り込むこと、アイランドキッチンにすることなどなど。これらの希望をもとにHSデザインから提案された図面を見たとき、「よし、これでいこう!と。最初から感性がぴったり合いました。せっかく創るのですから、飽きのこない、年を重ねても愛着を持って住める家にしたかったのです」。
ロフトに面した吹き抜けに長い煙突を伸ばすストーブも、この家にはよく似合う。薪は向かいの雑木林から取り放題。ピザを焼いたりローストビーフをつくったりと、冬の生活をおおいに楽しんだ。一日じゅう火を見ていても退屈することはなく、出かけたくなくなったそうだ。
「社長の城下さんに何かお願いして“できない”といわれたことは一度もないんです」と奥さまはいう。角度のついた特製ダイニングテーブルは懐かしい雰囲気が漂い、ご主人の実家で使っていたという愛着のある椅子にぴったり。ほかにも寝室の棚や洗面台の鏡の高さなど、工事がはじまってからその場で変更してもらったものも多々あるのだとか。それも頻繁に現場に足を運び、城下さんはじめ職人さんとコミュニケーションを深めたおかげだ。
現場をまめに通うことの利点はそれだけではない。完成してからでは見ることのできない壁の内部や床下の構造を確認でき、それが住んでからの安心感につながるのだという。時間が許す限り、オーナーにも施工の様子をどんどん見てほしいというのが、HSデザインの考えだ。
室内に使われたすべての床材は、仕事の合間に夫婦で協力し合い4ヵ月かけて塗装したものだ。ガレージまわりの木の外壁も3度重ね塗りしたという。大変だったけれど、住まいづくりに参加したという達成感は大きい、とMさんご夫婦は声を揃える。自ら手をかけた住まいなら、大切に思う気持ちもひとしおに違いない。
<設計のポイント>
- ワイドスパンを生かし、中心をくの字に屈折させた平家住宅。
- リビングに吹き抜けとロフトを設け、タテ方向の開放感を演出。
- 北と南、両サイドから違った景色を楽しめるのびやかな住空間。
- 無垢材をふんだんに使った、シンプルで質感のいいインテリア。
- 薪ストーブとダイニングを中心に据えた心地よい空間づくり。
Other Worksその他の雑誌掲載事例
-
こだわりのオーダーキッチンを主役に、つくると食べるを楽しむ暮らし。
-
緑に包まれた丘の上に建つ、四季の移ろいを愛でる家。
-
設計デザイナーと大工棟梁の最強コンビが創る上質な住まい。
-
夫婦それぞれの仕事場を兼ね、家族が一日じゅう心地よく暮らせる住まい。
-
夏は畑、冬は薪ストーブ。理想のわが家で、暮らしの楽しみが開花。
-
男のロマンと家族への想いが同居する住まい。
-
薪割りに、野菜づくり。田舎暮らしの憧れを札幌で。
-
カーポートの奥に開ける木のぬくもりが心地よい住まい。
-
水辺の緑を借景に、四季の風を楽しむ住まい。
-
敷地のクセをメリットに。
-
おおらかな空間が心地よい、ロフトのある平屋住宅。
-
思い出に残る、家族参加の住まいづくり。